韓国の相続手続きについて 

 先日、お客様からご支援の依頼をいただいておりました韓国・新韓銀行の口座解約手続きが無事に完了し、お客様から感謝のお言葉をいただきました。ご家族様にとって、お辛い状況の中、少しでもお力になれ、うれしく思っております。

 さて、これまでアデモス事務所では、数多くのご相談を受け、韓国内にある財産の相続手続きのご支援を行ってきましたが、相続手続き全般について解説した資料が、あまり見つかりませんでした。当事務所で、把握している内容につきまして、解説いたします。(2023年8月現在)

相続手続きの流れ

 韓国の方が亡くなられた場合、以下の流れで手続きを進めることになります。
まず、お気をつけていただきたいのは、日本で亡くなった場合に病院で死亡診断書を受け取り、火葬・埋葬の許可を得るために葬儀会社等を通じて死亡届を提出いたしますが、韓国への手続きが必要であるという点です。
 外国籍の方の場合は、日本の戸籍制度の対象外となっており、本国の行政機関で管理をしています。そのため、日本の役所に死亡届を出したとしても本国の記録には自動的に反映されるわけではありません。そのため、日本の役所で死亡届を出した後、必ず死亡届記載事項証明書を受け取り、本国への手続きをする必要がございます。
 

  1. 死亡申告(1か月以内)
  2. 金融機関の取引履歴の開示請求
  3. 遺言書の有無の確認
  4. 法定相続人の確定
  5. 相続放棄・限定承認の手続き(死亡をしった時から、3か月以内)
  6. 相続税の申告及び納税(死亡した月の末日から6か月以内・非居住者は9か月以内
  7. 不動産取得税の納税(死亡した月の末日から6か月以内・非居住者は9か月以内
  8. 不動産の名義変更・預貯金の解約

死亡申告の注意点

 市区町村役場で、死亡届を出し、死亡届記載事項証明書を受け取った後、韓国領事館又は現地の役所に死亡届を出さなくてはなりません。また、死亡届記載事項証明書は翻訳文をつける必要があります。

韓国の死亡申告に必要な書類は以下のとおりです。

  • 申告書 
  • 死亡届記載事項証明書
  • 上記の翻訳文
  • (死亡した人の)基本証明書・家族関係証明書
  • 身分証明書(パスポート又は在留カード、特別永住者証)のコピー及び原本提示
  • 認印

 死亡申告の期限は、1か月以内です。死亡してから3カ月が経過した後に、申告をする場合は、亡くなった方の住民票除票、申告をする人の住民票とその翻訳文が必要になります。

 申告ができる人は親族又は同居人などに限定されております。そのため、韓国側に出生申告をしていない場合は出生申告をする必要がありますし、日本に帰化した人は、関係を確認するために帰化当時の戸籍や現在の戸籍を取得し、翻訳する必要があります。

相続税・取得税の申告の必要性について

 韓国内に預貯金がある場合や不動産がある場合は、預貯金の解約と日本への送金、不動産の相続による名義変更の手続きを進めるために、韓国での相続税の申告が必要です。この場合、相続税の申告は、各種控除の結果、実際に相続税を納付する必要がなくても必要となるため、ご注意ください。

 韓国の相続税の申告期限は、日本(10か月)と異なり、相続の開始から6か月(非居住者の場合は9カ月)です。この期限を越えてしまうと、未申告税等の加算税が賦課されてしまいます。遺産分割協議の結果、一定金額を超えて相続財産を取得した配偶者が利用できる配偶者控除(30億ウォンまで)の期限は、相続税の申告期限の翌日から9カ月以内(死亡から15カ月以内)となり、やむをえない事情で遺産分割ができない場合に「3年以内」まで認められている日本とは、控除が利用できる期限が異なっている点にも注意が必要です。

 また、これも見落としがちですが、韓国では不動産の相続登記を申請する際に、不動産の取得税を納付しなければなりませんが、相続の場合、実際に相続により取得したのは相続が開始する時点となるため、相続開始時より不動産取得税の納税義務が発生します。取得税の申告・納付をせずに放置していた結果、いざ、相続登記を申告する段階で、多額の加算税を支払うことになったというケースもあります。

 韓国に相続財産がある場合は、韓国での申告納税義務についても相続開始の直後から確認し、対応しておくことが、費用を節約するための一番の秘訣です。

居住者・非居住者の判断

 韓国の法制上、居住者・非居住者で適応される制度が異なります。上に記載したとおり、相続税の申告の期限も異なりますし、控除される税額も異なります。そのために重要となる判断の基準ですが、韓国の所得税法及び同施行令に定められています。

所得税法第1条の2(定義)

1.「居住者」とは国内に住所をおき、又は、183日以上の居所を置く個人をいう。
2.「非居住者」とは居住者でない個人をいう。

所得税法施行令 第2条(住所と居所の判定)
①「所得税法」第1条の2による住所は国内で生計をともにする家族又は国内に所在する資産の有無等の生活関係の客観的事実により判定する。
②法第1条の2による居所は、所在地外の場所のうち相当期間にかけて居住する場所として、住所のように密接な一般的生活関係が形成されてない場所をいう
③国内に居住する個人が次の各号のいずれかに該当する場合には国内に住所をもつものとみなす。
1.継続して183日以上、国内に居住することを通常必要とする職業をもつとき
2.国内に生計をともにする家族がおり、その職業及び資産状態に照らして継続して183日以上国内に居住するものと認められるとき
④国外に居住又は勤務する者が外国国籍をもち、又は外国法令によりその外国の永住権を得た者で、国内に生計をともにする家族がなく、その職業及び資産状態に照らして、再び入国し主に国内で居住するものと認められないときは国内に住所がないものとみなす。

 韓国に住民登録をした場合や183日以上滞在している場合はもちろんのこと、そうでない場合であっても、事業の内容や生活状況に応じて居住者として判定される可能性があります。亡くなった方が、このような可能性がある場合は、まずは、パスポートや韓国における出入国の記録を確認して、滞在している期間が183日以上になるかどうかを確認いただく必要がございます。

▼韓国不動産の相続手続き(1)
▼韓国不動産の相続手続き(2)