R3.2.15 司法書士によるマイナンバー電子署名の検証システム導入について

 令和3年2月15日の商業登記規則の一部改正により、マイナンバーカードに格納された法人代表者の電子署名をつかって、オンラインで会社の登記が申請できるようになります。これに合わせて、日本司法書士会連合会では、マイナンバーカードのICチップを読み込んで、電子署名を確認する仕組みを導入します。

 現在の制度では、法務省の登記・供託オンラインシステムを利用してオンラインで会社の登記を申請するには、法務局が発行する会社の登記に基づく代表者の電子署名が必要です。

 この電子署名の制度は、有効期間が3か月の短いもので発行費用が2500円、最長27か月のものは発行費用が、16900円かかるため、利用があまりされず、平成12年の導入から20年が経過した令和2年末の時点でも、有効署名数が5万2507件と低迷しております。(国税庁の平成30年度の統計では、会社等の数は269万2584社。単純計算で、普及率1.95%)

 そのため、会社・法人の登記申請は、登記に関する専門家である司法書士に、会社代表印が押印された委任状を提出し、司法書士が自らの電子署名を利用して申請する形で、オンライン化がすすめられました。

 今回の改正のポイントは、これまでの会社の電子署名の普及を進めるのではなく、新型コロナ感染症対策の特別定額給付金などで一気に24.6%まで普及が進んだマイナンバーカードに格納された電子署名を利用する方向へと、法務省が舵を切ったところにあります。

 マイナンバーカードのICチップには、カードの持ち主の「氏名・住所・生年月日・性別」が含まれた電子署名と、電子署名の発行年月日、有効期間の満了日が格納されており、電子署名の有効性を確認することで、本人であるかどうかの確認ができます。しかも、発行手数料が無料で有効期間が5年もあるため、発行手数料と有効期間の短さがデメリットだった登記に基づく会社代表者の電子署名のデメリットをカバーしてくれています。

 このマイナンバーカードの電子署名を会社の登記申請に利用することができれば、今まで以上に、会社が直接、自社の登記を申請したりできるようになるでしょう。

 ただし、会社の経営者がご高齢だったり、IT技術に詳しくないなどの理由で、自社でのオンラインの申請をすることができない会社はこのメリットを享受できないことになります。

マイナンバー電子署名に対応した司法書士の新システム

 現在、日本司法書士会連合会は、この改正の恩恵を受けることが困難な事業者が壁を乗り越えるためのシステムを開発中です。

 日司連は、マイナンバーカードのICチップに格納された電子署名の有効性を検証できる専門家団体に指定されており、会員司法書士に、独自のシステムを通じて、マイナンバーカードの電子署名を検証することができます。

 このシステムが完成すれば、司法書士が顧問先等の会社から依頼を受けた際に、会社代表者のスマートホンや司法書士事務所のパソコンなどで、依頼者のマイナンバーカードを読み取り、日司連の管理するサーバーに電子署名のデータを送信し、その署名が有効なのかどうかを検証することができます。

 この方式は、犯罪収益移転防止法施行規則の第6条第1項1号(ワ)ないし(カ)に該当するeKYCとなるため、遠隔地における本人確認のための手段としても活用が可能になると思われます。 

クラウド型電子署名について

 「GMO電子印鑑Agree」「クラウドサイン」「クラウド契約管理sign」などの事業者が提供している電子契約システム(クラウド型電子署名)は、セイコーソリューションズなど5社が提供するタイムスタンプ情報を付加する形で、サービスを提供しています。

 クラウド型電子署名は、文書の作成者が電子署名をするわけではなく、文書作成者が、サービス提供事業者のシステムの中で提供した承諾情報をタイムスタンプと同時に記録し、サービス提供事業者が電子署名をすることで、文書作成の真実性を担保する仕組みとなっています。

 会社の登記についても、このクラウド型電子署名を添付書類の一部として、部分的に認める改正がなされますが、システムの根幹をなすタイムスタンプについては、将来、何らかの争いが起きた時点で検証が可能であるかというと、そのようなシステムになっておりません。

 現在、法務局が発行している登記に基づく電子署名については関係書類が20年間保管されることになっておりますが、民間事業者の提供するクラウド型電子署名については、法務局に関係書類が保管されているわけではないため、署名及びタイムスタンプの有効性を第三者が将来においても確認できる制度の導入が不可欠と考えます。

 そこで、このタイムスタンプ制度について令和6年度までに国が認定する制度を設けることが検討されています。

(令和3年2月8日 文責:司法書士 中村圭吾)