「親が韓国で亡くなった」——日本に住む子どもが最初にすべき5つのこと

司法書士・行政書士 アデモス事務所 / 代表 中村圭吾


はじめに:その電話は、突然かかってくる

「母が昨日、ソウルで亡くなりました。葬儀は済んだのですが……これから何をすればいいのか、全くわからなくて」

こうした相談が、当事務所には毎月のように届きます。中には、日本人の配偶者がソウルで亡くなったという韓国語での問い合わせもあります。

最近は、日本と韓国の国際結婚のカップルも増え、韓国に親や兄弟がいるという人は少なくありません。親が高齢になり、「いつかはその時が来る」と分かっていても、実際に連絡を受けたとき、多くの方が「何から手をつけていいか分からない」という状態に陥ります。

葬儀の手配、韓国の親族との連絡、仕事の調整——。感情的にも体力的にも極限の状況の中で、「相続の手続き」まで考える余裕がないのは当然のことです。

しかし、だからこそ、そのときが来る前に知っておいてほしいのです。日韓をまたぐ相続手続きには、日本国内の相続とは全く異なるルールがあるということを。

本稿では、「韓国籍の親が亡くなった後、日本在住の子どもとして何をすべきか」を、実務の現場から5つのステップに整理してお伝えします。


ステップ1:まず確認すべきは「どの国の法律が適用されるか」

日韓相続において、最初に頭に置いておくべき原則があります。

相続には、被相続人(亡くなった方)の本国法が適用されるというルールです。

日本の法律(法の適用に関する通則法)では、相続は「被相続人の本国法による」と定められています。つまり、亡くなった方が韓国籍であれば、相続の大枠は、韓国の民法に基づいて進めることになります。逆に、日本人の場合であれば、韓国で亡くなったとしても相続は、日本の民法に基づいて進めることになります。

ただし、注意が必要なのは、財産がどこにあるかによって具体的な手続が大きく変わるという点です。

たとえば、親が韓国に土地や建物を持っていれば、その不動産の相続手続きは、韓国の裁判所(韓国では登記は裁判所が担当しています)で行う必要があります。一方、日本に預貯金や不動産があれば、日本の金融機関や法務局での手続きが必要です。つまり、財産が両国にまたがる場合、日韓それぞれで別々の手続きを同時並行で進めることになります。

大枠のルールと具体的な手続によって、関係する法律が二重にあるという感覚を最初に持っておくことが、その後の手続きをスムーズに進めるための出発点です。


ステップ2:韓国側で行う手続き——「家族関係登録簿」の取得から始まる

韓国での相続手続きの核心となるのが、「家族関係登録簿」の証明書の取得です。

日本で言えば「戸籍謄本」にあたるこの書類は、被相続人の死亡の事実、相続人の範囲(子・配偶者・兄弟姉妹など)を確認するために不可欠です。

韓国では2008年の法改正により、従来の「戸籍」制度が廃止され、「家族関係登録簿」に制度が移行しました。証明書は、基本証明書・家族関係証明書・婚姻関係証明書など複数種類に分かれ、手続きの目的によって必要な証明書が異なります。相続の場合は、これらの書類の「詳細」版が必要です。

韓国で亡くなった場合は、韓国で死亡申告を済ませていると思いますが、日本で亡くなった場合は、日本の役所で死亡届を出しても韓国側の記録には反映されません。韓国大使館(領事部)や領事館で、死亡申告を行う必要があります。

実務上のポイント: 取得した韓国語の書類は、日本の手続きに使用する際には日本語の翻訳文が必要です。逆に韓国側に日本の戸籍を提出する場合には、翻訳とアポスティーユの付与の手続が必要になります。亡くなった親御さんが在日の方であれば、大韓民国民団に取得を依頼できる場合もありますので、そちらに聞いてみるのもよいでしょう。


ステップ3:韓国民法の「法定相続分」を確認する

韓国の相続割合(法定相続分)は、日本の民法とは一部異なります。

韓国民法では、配偶者の法定相続分は他の相続人1人分の1.5倍と定められています。
子どもと共同で相続する場合の法定相続分は下記の表のとおりですが、日本と異なり、子どもの数に応じて法定相続分が異なります。

配偶者
子ども1人の場合3/52/5
子ども2人の場合3/7各2/7
子ども3人の場合3/9各2/9
子ども4人の場合3/11各2/11

両親と共同相続になる場合は、韓国と日本で法定相続分は大きく異なります。

日本韓国
親1人配偶者 2/3  親 1/3配偶者 3/5 親 2/5
親2人配偶者 2/3 各親 1/6配偶者 3/7 各親 2/7

子どもがなく、両親が既に亡くなっている場合、韓国と日本では相続人の範囲自体が異なります。日本では、兄弟姉妹が相続人になりますが、韓国では配偶者がいる場合、兄弟姉妹は相続人にはならず、配偶者が、すべて相続します。

日本韓国
きょうだい 1名配偶者 3/4  
きょうだい 1/4
配偶者のみ
きょうだい 2名配偶者 3/4
きょうだい 各1/8
配偶者のみ

要注意のケース: 日本と韓国では法律で定められた相続分が異なるため、日本と韓国のそれぞれの相続人の間で、相続分について認識の齟齬が生まれることがあります。「韓国では長男が多く受け取るのが慣習だ」という意識が残っている親族との間でトラブルになるケースも少なくありません。
法律上の権利としてできる主張と慣習の間にあるギャップを、早めに確認しておくことが大切です。


ステップ4:日本側の手続き——「外国人の相続人」として動く

日本で長く暮らし、日本に財産(預貯金・不動産など)があっても、日本国籍でなければ、外国人として手続を進めることが必要になります。

日本の金融機関や法務局での手続きでは、通常の相続で必要とされる書類に加え、以下の書類が求められます。

  • 韓国の家族関係登録簿の証明書(日本語翻訳付き)
  • 外国人登録原票の写し(韓国の家族関係証明書及び除籍謄本で出生までの記録が確認できない場合)
  • 相続人全員の署名・押印(韓国にも印鑑証明書の制度があるため、遺産分割協議書などに実印を捺印する形で提出可能です)
  • 日本の財産だけであれば、日本の家庭裁判所での相続放棄の申述も可能

日本の不動産が含まれる場合、相続登記の義務化(2024年4月施行、2027年完全実施)により、相続を知った日から3年以内に登記申請をしなければ過料が課される可能性があります。これは、被相続人が外国籍であっても同様に適用されます。外国人登録原票の請求には現在、4カ月以上の期間を要するため、早めに対策を立てる必要があるでしょう。


ステップ5:「韓国にいる相続人」との合意形成が最大の難所

日韓相続で最もエネルギーを要するのは、書類の収集でも法律の解釈でもなく、韓国に住む親族との合意形成です。相続人にあたる親族がどこにいるのか分からない、というケースも数多くあります。

言語の壁、物理的な距離、長年の家族関係の歴史——これらが複雑に絡み合い、遺産分割協議が長期化するケースは珍しくありません。このような場合に備えて、あらかじめ生前に財産を整理したり、遺言書を作成しておくなどの準備が必要です。

当事務所では、韓国の法務士・弁護士と連携し、日韓双方の手続きを一括してサポートする体制を整えています。「韓国側の手続きをどう進めればいいか分からない」「韓国の親族との交渉に不安がある」といった段階からのご相談も、ぜひお気軽にお声がけください。


おわりに:「備える」ことが最大の親孝行

日韓相続の手続きは、どれほど準備をしていても、突然訪れる悲しみの中で進めなければなりません。だからこそ、親が元気なうちから、財産の所在や相続人の範囲、連絡先を把握しておくことが、いざというときの家族への大きな助けになります。

「うちにはそんな財産はない」と思っていても、韓国に小さな土地が残っているケースは多くあります。一度、ご家族で話し合う機会を持つことをお勧めします。

当事務所は、そのような「備え」の相談にも、いつでも対応しています。


【執筆者プロフィール】

司法書士・行政書士 中村 圭吾

元新聞記者という経歴を持つ異色の司法書士。東京・赤坂にて、在日韓国人の相続問題や韓国企業の日本進出支援を専門に取り扱う。日韓両国の専門家ネットワークを活かした、国境を越えた相続サポートに定評がある。